トップ対談
2003年、帝人製機株式会社、株式会社ナブコが油圧機器事業に関する業務提携をきっかけとし、持株会社ナブテスコを設立。モーションコントロール技術を軸に、空・陸・海における多岐に渡る事業分野で、世界シェアNo.1、国内シェアNo.1の製品を数多く有するメーカーです。
事業について
吉田 まずは、御社の事業内容について教えていただけますか?
清水 ナブテスコ株式会社は、帝人製機株式会社と株式会社ナブコが2003 年に持株会社を設立し生まれた会社です。モノを精密に動かし、止める「モーションコントロール技術」を中核とし、広範な領域で事業を展開し、着実な成長を遂げてきました。
その領域は、産業用ロボットをはじめ、航空宇宙、鉄道、建設機械、舶用、商用車、自動ドア、食品包装機、等多岐に渡ります。
自動車の製造ラインで稼働している産業用ロボットの俊敏で精密な動きを支えているのが精密減速機であり、ナブテスコは高精度・高剛性・高耐久性を実現できる減速機の独自技術を長年に渡り磨き上げてきました。
吉田 当社も、高精度・高剛性・高耐久性の追求に注力していますが、これら3 つを実現するためには何が重要だとお考えですか?
清水 製品性能を決定づける部品の寸法精度と表面品位です。即ち、研削・研磨を始めとする超精密仕上加工技術ですね。
例えば、私が長年携わってきた航空機事業のFCAS( フライトコントロール・アクチュエーション・システム) のサーボバルブは局部的にサブミクロンの精度が必要です。航空機の主翼・尾翼のフラップ( 固定翼の可動部) は、油圧アクチュエータの僅か数十センチのストロークで大きな機体の姿勢を油圧で制御しなければならないため、その心臓部であるサーボバルブをかなり高精度に造る必要があります。昔は、工作機械の加工精度に限界があり、作業者の技能と経験が頼りでしたが、現在では進化した高精度な工作機械と東京精密様の測定機の力をお借りして、高精度・高剛性・高耐久性を保証することができるようになりました。
- ナブテスコ株式会社
- 執行役員
- 清水 功
- 1984年 明治大学工学部 卒業
- 1991年 旧帝人製機株式会社 入社
- 2012年 航空宇宙カンパニー岐阜工場 工場長
- 2015年 理事 航空宇宙カンパニー岐阜工場 工場長
- 2016年 理事 ものづくり革新推進室 室長
- 2016年 執行役員 ものづくり革新推進室 室長
弊社とのかかわりのきっかけ
吉田 当社の測定機を導入していただくきっかけになったのが、そのサーボバルブを研削する際の定寸の測定でしたね。サブミクロンの加工精度が必要とのことで採用していただきました。
清水 そうでしたね。航空機用サーボバルブの部品加工プロセスの計測を東京精密様にお世話になったお陰で高精度を実現することができました。
また最近では、産業用ロボット向け精密減速機のコア部品の自動加工セルに東京精密様の3D CMMを採用させて頂きました。産業用ロボットの場合、3mのサイズで先端の位置決め精度は0.1mm 以下。従って精密減速機のいくつかのコア部品の加工精度は想像できると思います。これらの製造プロセスでインライン自動計測をご担当いただき、品質を保証させていただいております。
また自動加工セルとの親和性が高く、インテグレートし易いのも東京精密様の特徴です。多方面で弊社のものづくりの根幹を支えていただきまして、改めて心より感謝申し上げます。
吉田 工場にお邪魔させていただいたことがありますが、精度に対する強いこだわりが感じられました。当社も高精度・高信頼性に重きを置いてものづくりをしていますが、ナブテスコ様も高精度・高信頼性を重要視しているという共通点を感じました。
トップシェアの秘訣
吉田 御社の多くの製品はトップシェアを誇っていますよね。その秘訣は何ですか?
清水 現在ナブテスコ製品の多くは、高いシェアを獲得していますが、事業・製品によって戦略が異なります。多岐に渡って事業展開しているため、一つ一つの事業規模は決して大きくはなく、リソースにも限りがあります。どのような領域でどのような強みを売りにするかを、顧客とその上位の顧客までをしっかり分析し、それを戦略に落とし込んで、限りあるリソースを集中できたことが現在の高いシェア獲得に繋がったと考えています。
お陰様で、ナブテスコのお客様のほとんどが国内外の一流大企業であり、それらのお客様に高い顧客価値を継続的に生み出し提供できていることが高いシェア獲得に繋がっているものと思います。
この顧客価値は、もちろん製品自体の技術優位性もありますが、多くはものづくりのQCD 競争優位性であると私は考えています。納期、品質に関してはものすごくこだわりを持って対応しています。
吉田 やはりシェアを確立するには顧客満足度は重要ですよね。アプリケーションや提案などで競合と差別化を図っていく必要もあります。また、カタログに掲載されているスペックとしては競合他社と大差がなくても、現場できちんと信頼性のある結果がだせるかが重要だと思います。
清水 そうですね。以前、ロボットメーカー様のお客様である自動車メーカーに訪問した際、弊社の産業用ロボット向け精密減速機と他社製を比較したデータを見せていただきましたが、弊社の製品は、他社製に比べて7 ~ 8倍も耐久性が高いとの評価でした。
おっしゃる通り、カタログに掲載されているスペックは変わらなくても、お客様は、実用レベルで見るべきところを見ていただいていると感じました。
吉田 当社も同じく自動車メーカーのお客様に、温度変化の中での測定誤差が、競合機と比較して一番信頼性が高いという評価をいただきました。良いものをつくれば、必ずお客様に伝わる。我々もそう信じています。
- 株式会社東京精密
- 代表取締役社長CEO
- 吉田 均
- 1983年 明治大学工学部電子通信工学科 卒業
- 1983年 (株)東京精密 入社
- 2010年 日本精密測定機器工業会 会長就任
- 2015年 代表取締役CEO就任(現任)
- 2016年 NDマーケティング大賞受賞
業務について
吉田 清水様の所属する「ものづくり革新推進室」の業務について教えてください。
清水 ものづくり革新推進室は、生産技術部、調達統括部、環境安全部の3 部で構成されています。生産技術部は、高自動化・独自生産技術開発を担当する生産技術グループと、主にICT(IoT/AI) を活用した“ 見える化” を推進する生産管理グループに分かれています。
昨今のIoT/AIの流れに後れを取らないためにも、これらの導入検討を進めていますが、弊社は、異業種の集合体であることから、各カンパニー( 工場) の生産量、生産形態が大きく異なるため、IoT/AI のプラットフォームを形成しづらい体質であると考えています。そこで弊社では、IoT/AIを単なるツールと考え、其々のカンパニーや工場が何をしたいのかをしっかり調べ上げ、其々の目的・ニーズに合ったデバイスを導入するという、いわゆる” スモールスタート“ でのICT化を開始、現在その試験運用を行っているところです。
吉田 仕事をする上で大切にしていることはありますか?
清水 コミュニケーションですね。ものづくり革新推進室という本社組織の役割は、カンパニーのものづくり現場に、今までにないソリューションを提供することだと考えています。本社組織として、経営目標を達成するためのソリューション、カンパニー(工場) がしたい改革・改善について、何度も議論を交わして、実行すべき施策をお互いが納得できる形で絞り込むことが重要です。これが最も重要なコミュニケーションだと思います。
私は以前工場長を4年ほど経験しましたが、その時も現場とコミュニケーションを密にしてきましたが、現在の本社組織の立場では、考え方の異なる異業種の人財の集合体と話を進める中で、尚一層のコミュニケーションが必要となっています。
吉田 おっしゃる通り、コミュニケーションは大事ですよね。当社もカンパニー制を導入していますが、現在独立しているものを融合していこうと進めています。生産しているものは異なっていても同じものづくりの思想を持てるような組織づくりは大事です。工場間の交流があればいいけどそういう組織はまだうちもない。それぞれきっと同じ考えの部分や悩みがあると思います。これは、お互いのいいところを融合してより良いものづくりを進めたいですね。
清水 異業種合同で勉強すると、得るものがいっぱい出てきます。生産管理面では中々プラットフォームを造りにくいとお話しましたが、生産技術面では、あそこの技術をここに使おう、あそことここの技術を組み合わせてみよう、という具合に横串を入れることができます。たまに相乗効果によって新たな生産技術の創出も可能です。
生産に対する取り組み
吉田 御社は、IoT化や自動化を推進していらっしゃいますよね。
清水 はい。弊社では、現在高自動化を推進しています。しかしながら、実現可能な製造プロセスが限られています。組立・検査等のプロセスでは、いまだに作業者の技能に依存しており、将来に向けても、作業者の技能と自動化の共存が望ましいと考えています。唯一、機械加工は高自動化を推進しやすいプロセスであることから、工作機械と測定機、更にロボットを組み合わせたシステム構築を進めています。
更なるQCDE 競争優位性の向上を図るためには、自動化したそれぞれの生産工程内で品質を保証できる仕組みが必要です。このためには中間工程の測定データをデジタル化し、良否の自動判定や統計的管理に活用できるシステムを構築しなければならないと考えています。また、自動化が進めばオペレーターが不在になるので、設備の異常を予知( 監視) する機能が必要になりますので、そこにはIoTを有効活用したいと考えています。現在、設備予防保全IoT の準備を進めています。
吉田 我々も生産ラインの中へ測定機の導入を積極的にお客様へ提案しています。当社の測定機が最適な生産に貢献できるよう、自動化やIoT に即した測定機である必要があります。現在、自動測定による省人化、データ管理、測定機管理の対応を進めています。また、当社はエンジニアリング部門を持っているので、お客様の個別要求に対して一括で請け負っています。当社と御社の方向感がぴったりあっていますね。
今後について
吉田 今後のビジネスの見通しについて教えてください。
清水 今後の見通しについて、多くの事業では需要の変動を繰り返しながらも長期的に成長するものと期待していますので、2030年のものづくりのあるべき姿をしっかりイメージし、QCDEの競争優位性を更に向上するための施策を着実に実行することを考えています。
特に産業用ロボット事業、航空事業において、(Q) 品質が高い顧客価値を生み出している現実を考えれば、東京精密様との協業は今後、更に重要となってまいります。
吉田 今後もパートナーとして協力する上で、東京精密に期待することはありますか?
清水 東京精密様には、引き続き産業用ロボット向け精密減速機の量産ラインのインライン計測と航空機事業のFCASサーボバルブの超高精度計測をお願いすることになると思います。
他にも建設機械・鉄道・商用車のものづくりにおいても、コア部品製造は社内で行っているため、将来に向けてインライン計測化を推進することになります。その中で、東京精密様には、現在以上の『超高精度計測の実現』と『工作機械を制御できる計測システム』を目指していただきたいと思います。
今後も定期的に情報交換をさせていただき、弊社のニーズをお伝えしていきたく思いますので、引き続き、ご支援とご協力の程宜しくお願い致します。
吉田 もちろん、厳しい要求にも対応していくことが我々の力になり、次の章に向けてのステップアップにつながります。また、正直な意見も伝えてくださるお客様は貴重な存在です。これからも、どんどんご要望をおっしゃってください。我々も全力を尽くします。
ナブテスコ株式会社
2003年、帝人製機株式会社、株式会社ナブコが油圧機器事業に関する業務提携をきっかけとし、持株会社ナブテスコを設立。モーションコントロール技術を軸に、空・陸・海における多岐に渡る事業分野で、世界シェアNo.1、国内シェアNo.1 の製品を数多く有するメーカー。